自動車輸出物語

三菱商事自動車部OBの海外活動

1962年出張時。タイバンコックとサラブリを結ぶ幹線道路をいすゞトラックが疾走する。当時は、雨期になると道路が冠水し4時間も掛った。

自動車輸出物語 000-083


記載日付:2010年7月29日
ライター:鈴木富司
番号:000-083
タイトル:失敗したプロジェクト 
  
 自動車輸出物語を書き始めて10年が経過しました。最近は、題材も少なくなり、半年に1回発行をしている状況です。書き始めたのが、中村敬止先輩が亡くなる直前でしたので、中村さんが亡くなって、もう10年が経過したことになります。

 とても嬉しいことがありました。6月16日に、古巣の三菱商事自動車部からお声が掛かり、後輩達に「自動車輸出物語」を語る機会を貰いました。自分の生き様も織り交ぜて、50名近い若いひとにパワーポイントのスライドを使って熱く語ってきました。

 アンケートの結果とともに、いくつかの質問を頂いていますが、その中に「これをやらなければ良かった/あれをやらなかったのは失敗だったというものはありますでしょうか。」というのがありましたので、恥ずかしながら失敗の記録も「自動車輸出物語」に記載しようと思います。どこかで、書いたような気もしますが、いくら検索してもでてこないので、失敗談は避けていたのでしょうね。

 本人は結構真剣にやっていましたので、周りのひとは随分と迷惑をしたことと思います。

 インドネシアでコルトが成功を収めて、飛ぶ鳥を落とす勢いの時だったと思います。全く違った分野の商品を開発しようと思っていたときのことです。確か、具体的な引き合いも入ったのだと微かに記憶があります。それは熱帯雨林の中で稼働させる安価な木材運搬車です。当時は、外資が使う米国製の超大型のトラックか、地元の業者が使う中古の米軍トラックの改造版木材運搬車しかなかったのです。ここに、日本製の大型トラックを木材運搬用に改造をして出そうと考えて、仕様も決まらないまま、サンプルを2台注文してしまったのです。結果は、散々でした。2台が完成して千葉の貯木場で実験まで行ったのです。現車を見た瞬間、これはダメだと思いました。結局、協力会社の明和産業の人が三菱商事の合弁木材会社に売り込んで下さり、「使えない代物」を使って頂いたという後味の悪いものでした。

 中古の米軍トラックの改造車は傑作だったのです。確か、山大王(さんたいおん)と呼ばれていたと思います。フレームを思い切り延ばして、中央にウインチを取付、キャビンの後ろに木製の櫓のようなものを取り付けたものです。改造は、いずれも現地の知恵者がつくり、普及していったのでしょう。実に良くできていました。クレーン車やローダーも不要で、トラック自身がウインチで木材を車台に引き上げて走るというトラックでした。値段も、非常に安いのですが、欠点は中古車ですので、だんだん部品が手に入らなくて、日本車でつくってくれないかという要望があったのです。

 運転席などは綺麗なスチールボデーでなくてよい、削れるところは一切削って安価なトラックを設計してよ、ということで、当時親しくしていた三菱自工設計課長の五味さんと意気投合をしたのです。五味さんは、海外とビールが大好きなひとで、設計者には珍しく大変フレキシブルな方ですので、多いに語り合ったものです。五味さんの名前をとって五大王(ごたいおん)と名付けたのも懐かしい話です。五味さんも、最初の思惑通りに運ばずに、生産現場との関係で随分とご苦労をされた様子でした。

 結局、出来上がったトラックは価格が全く下がらず、到底現地の業者には買えるものにはならなかったのです。一方、米国製の超大型トラックを扱う企業には、「そんなオモチャみたいなものは邪魔だ」と言われる始末でした。

 アフターサービスをするにしても、ジャングルの中ですから、碌な道もないわけです。外資企業は、部品も修理工場も自前で持つというものです。島から島に船でアフターサービスをせねばならないような商品を開発しても、とても採算なんか合わないのは、初めから判っていたと言えば判っていたのです。熱っぽく語り合うのも必要ですが、「のり」とか「勢い」でやるプロジェクトは、周囲で冷静にブレーキを掛けるひとが重要になってくるわけです。

 五味さんとの付き合いは、深いものでした。毎週彼が丸の内にやってきて、私が海外事情や、輸出実務の講義をしましょうということで、暫く続けました。トラックの技術的な問題については、いつでも教えて頂けるという約束だったのです。そのあとのビールも、われわれの目的だったと思います。高度成長時代は、メーカーと商社の間で、こんな付き合いがあったのです。

 このプロジェクトは失敗しましたが、こういう形で、商社マンが技術をある程度承知し、いつでも電話一本で技術の神髄を解説して貰えるというのは、大変な武器でした。一方、海外事情や輸出のからくりを知っている設計者がいるというのも、多いに助けになったのです。

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 生涯現役と称し、新しいプロジェクトを始めました。今週初めに初めての会員申し込みがあり、気をよくしています。

 仲間が始めた特許を取らないでアイデアを守る「存在事実証明書」を発行するプロジェクトの応援をするべく、目下ウェッブ・サイトをターゲット別に作成中です。このサイトに誘導するアドワーズ広告を行っています。奥の深いもので、一喜一憂して楽しんでいます。

 取りあえず、下記4本をつくりました。広告を見て入ってくるアクセス数も日に日に増えていますが、サイトの説明だけで会員を申し込んで貰う事業ですので、難しい挑戦です。

http://www.sonzaishoumei.com
http://www.sonzaishoumei.com/gyoukaihatsu/index.html
http://www.sonzaishoumei.com/ideaman/index.html
http://www.sonzaishoumei.com/iphone/index.html

 このプロジェクトは、タイムスタンプにより書類のアリバイを簡単につくり、同時に完璧に管理をして、従来、裁判になると、ほとんど負けてしまったものを、著作権、先使用権、先発明権、営業秘密を実質的に守れる権利とするものです。基本となるシステムについて、6月に特許がおり、国際的にも注目を集める内容をもっています。7月14日の日経産業記事にも取り上げられました。

 iPad・iPhoneのアプリの開発は、引き続き挑戦しています。アイデアはどんどん貯まっていますが、プログラミングが結構難しくて、売りに出すには至っていません。それでもアプリ開発者の仲間は沢山できました。仲間同士の合宿も2回行い、わいわい楽しくやっています。

鈴木富司
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