自動車輸出物語 

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記載日付:2001年8月8日
ライター:鈴木富司
番号:000-0030
タイトル: インドネシア自動車市場開拓初期物語 その3

 三菱商事はタイ国ではいすゞ車の代理店としてトラックのトップシェアーをとり大成功をしていました。インドネシアでもいすゞ車を扱いたいし、小型車に強い三菱車と組み合わせて進出をしようと考えていたのです。両社もインドネシアにおける販売提携に賛同して、その構想にそって進出計画を練っておりました。更に具体的な計画にするために、三菱商事が招へいをして、いすゞと三菱重工の部長クラスの人に集まって貰いました。車種調整を図ろうとしたのです。当時、いすゞは6トン車と2トン車が強く、輸出実績も非常にあったのです。三菱の輸出玉の中心としてはジープがあり、車種としては8トン以上と1トン以下が強かったものですから、それぞれの強い車を選んで強力なチームに仕立てようとしたのです。

 しかし、その会議は思ったより難航しました。上司の桜井三郎部長代理が司会をつとめて調整を試みたのですが、総論では協調の必要性を認めながらも、具体的な車種の調整となると合意しないのです。結局、結論が出ずに、その会議は終了してしまいました。1969年の6月ころと記憶します。ところが、それから間もなくして、いすゞの有働輸出部長より、インドネシア進出での提携関係を解消したいと突然申し入れがありました。その部長さんは通産省出身のひとで、まだわれわれには馴染みの薄いひとでした。理由は、大分以前に与えてしまった代理権が契約書の不備で解消できないからというものなのです。そんなことは、最初から判っていたことですし、一緒にやりましょうということで、膨大な調査情報を提供してきた私としては、その理由にも釈然としません。通産省出身者であるということにも大変な反発を覚えた記憶があります。「それなら、独自でやってごらんよ、後で後悔しても知りませんよ」という気持ちでしたね。まあ、若い情熱と自分がやれば成功するとの自信だけは相当のものでした。

 結果的には、三菱車一本に絞ることができたし、その後のあのややこしい車種調整にも苦しむことなく、良かったと思っています。当時、トラックの輸出実績では、いすゞはダントツの一位だったのですが、現在のインドネシアでは圧倒的に三菱車の市場になっています。悪いのはいすゞではなく、全ては通産省出身の部長さんの判断の結果だと総括したものです。もっとも、この決断の背景には自動車業界の再編問題が絡んでいたのだと思います。その後、いすゞはGMと三菱はクライスラーと提携しましたね。

 さて、インドネシア進出問題のキーポイントは輸入外貨をどう調達し販売組織をどうするかでした。インドネシア政府は工業省が中心となって指定の組み立て工場を使わせて自動車産業を育成しようとしたのですが、われわれ外資側としては、輸入資金の手当てと販売網の整備をどのようにするかの方が難問でした。組立工場の整備資金は大したことはありませんし、資金を貸すなりして技術者を入れれば何とかなるものですが、輸入資金の手当とそれを安全・有効に活用した販売・サービス網の構築は、一朝一夕にはできないことなのです。しかし、その問題は商業省の管轄であり、外資の出資は一切認めず、インドネシア側の事業家に任せなさいという政策でした。輸入資金を調達できるような事業家は皆無ですし、合弁会社の設立は認められないのです。そこにわれわれの苦悩があり、また知恵の働かせどころだったのです。

 さあ、どこの指定組立工場と提携するか、商業省が登録を迫る総販売代理店をどこにするか、そういう難問が横たわるなか、1969年の前半はあっという間に過ぎて行きました。時代の動きというのはおそろしいものです。そういう難問を解決する糸口というものは、自然に現れてくるものなのです。市場が車を要求しており、何事にもとらわれない未経験の若者が参入してくる全く新しい産業というものは、すごいエネルギーを持っているのです。おまけに、行政側もフレキシブルなのです。無理と判断すると少し隙間を開けてくれるのです。方向は絶対に変更しないで、隙間の調整があるのです。契約をしても全く守られない反面、契約が無くても人間関係が保たれたり、不思議なことが起こるものです。欧米人が、戸惑う内にわれわれ日本勢が怒濤のごとく市場進出を果たしてしまったわけです。以前にも書きましたが、そのエネルギーは外貨を稼がねばという国民的コンセンサスと企業間の競争でしょうね。逃げ場のない輸出部門、それも市場別に割り当てられた輸出屋の、凄まじい闘争心、開拓精神だと思います。

 次号は、進出計画を立案して、さあこれで行こうというところまでの物語になると思いますが、とにかく流動的です。

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